診療内容・特色
妊娠中におきる異常について
分娩中におきる異常について
切迫流産、切迫早産について
妊娠22週未満の分娩を流産、妊娠37週未満の分娩を早産といい、その危険性のある状態をそれぞれ切迫流産、切迫早産といいます。
無理な運動や仕事、激しい咳やくしゃみ、細菌感染等が原因となって子宮収縮がおこり出血や腹痛を来します。普段からゆっくりとした生活がとても大切で、 風邪をひいたりお腹をこわしたりしないように気をつけましょう。
ほとんどの場合は安静と子宮収縮抑制剤の服用で収まりますが、激しい痛みや多量の出血の場合は、赤ちゃんが危険な状態にあることがありますのですぐに診察を受けて下さい。
切迫流産・切迫早産にならないための日常生活の注意点
- 重い物のあげおろし、階段の頻繁な上り下り、振動の激しい乗り物などを避ける。
- 妊娠初期と後期の性生活は控えめに。妊娠中期も無理のない程度に。
- お腹を冷やさないように。熱いお風呂も気をつけて。
- たばこはやめて、周りの人にも気をつけてもらって。
- 掃除、洗濯は楽な姿勢で。引越の時もゆっくりと。
- 妊娠中の旅行は妊娠5ヶ月から7ヶ月までがベストで、前もって妊婦健診の時に相談しておくことをお勧めします。
無理のない計画が一番大切です。
鉄欠乏性貧血について
妊娠すると、お母さん自身のからだと赤ちゃんの成長のために、体内の鉄の必要量が増えます。 そのために鉄の不足による貧血 すなわち鉄欠乏性貧血を起こしやすくなります。
鉄欠乏性貧血にならないためには普段からバランスのとれた食事をとる必要があります。 鉄を多く含んだ食材を使った料理を心がけて下さい。
鉄を多く含んだ食材
魚類 | まぐろ・かつおなどの赤身の魚 |
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肉類 | もも肉・レバー等 |
貝類 | あさり・しじみ等 |
緑黄色野菜 | ほうれん草・チンゲンサイ等 |
これらの食材は好き嫌いの多い物ばかりですが、 調理の仕方次第で食べられるようになります。是非工夫してみて下さい。
妊娠高血圧症候群について
妊娠中に高血圧・蛋白尿・浮腫のいずれかの症状が出現した状態を妊娠中毒症といい、妊娠中に起こるもっとも怖い病気と考えられていました。現在の日本の母子手帳や妊婦健診の歴史は、この病気をいかに早く見つけて、重症化しないうちに対処するかということを目的としてつくられたといってもいいでしょう。ところが、近年研究がすすみ、高血圧・蛋白尿・浮腫のうち、生まれてくる児に対して最も影響が大きいのは高血圧であるということがわかってきました。そこで、2005年からは妊娠高血圧症候群と高血圧を主とする名称に変更され、病気の定義も改正されました。
定義
妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧が見られる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないものをいいます。
病型分類
妊娠高血圧腎症(preeclampsia)
高血圧+蛋白尿のタイプで、最もよく見られる典型的なものです。
妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、かつ蛋白尿をともなうもので分娩後12週までに正常に復する場合をいいます。
妊娠高血圧(gestational hypertension)
高血圧のみのタイプで、かかる頻度は妊娠高血圧腎症の1/3程度です。
妊娠20週以降に初めて高血圧が発生し、分娩後12週までに正常に復する場合をいいます。
過重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia)
もともと高血圧、腎臓病などがあるケースです。
- 高血圧症(chronic hypertension)が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し妊娠20週以降蛋白尿をともなう場合、
- 高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降、いずれか、または両症状が憎悪する場合、
- 蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降に高血圧が発症する場合
をいいます。
子癇(eclampsia)
「しかん」 妊婦健診が普及している国では稀です。
妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次痙攣が否定されるものです。痙攣発作の起こった時期により、妊娠子癇・分娩子癇・産褥子癇とします。
症候による亜分類
重症、軽症の病型を高血圧、蛋白尿の程度によって分類しています。
【軽症】
血圧:次のいずれかに該当する場合です。
- 収縮期血圧 140mmHg以上、160mmHg未満の場合
- 拡張期血圧 90mmHg以上、110mmHg未満の場合
蛋白尿:原則として24時間尿を用いた定量法で判定し、300mg/日以上で2g/日未満の場合です。
【重症】
血圧:次のいずれかに該当する場合です。
- 収縮期血圧160mmHg以上の場合
- 拡張期血圧 110mmHg以上の場合
蛋白尿:蛋白尿が2g/日以上の場合です。
なお随時尿を用いた試験紙法による尿蛋白の半定量は24時間蓄尿検体を用いた定量法との相関性が悪いため、尿中蛋白の上昇度の判定は24時間尿を用いた定量によることを原則としています。随時尿を用いた試験紙法による成績しか得られない場合は、複数回の新鮮尿検体で、連続して3+以上(300mg/dl)の陽性と判定されるときに蛋白尿重症とみなします。
発症時期による病型分類
妊娠32週未満に発症するものを早発型(EOearly onset type)s、妊娠32週以降に発症するものを遅発型(LOlate onset type)としています。
上記のように、高血圧がない蛋白尿や浮腫のみは症状から削除されました。浮腫は妊婦さんの約30%にみられ、妊娠末期にはたいていの方に出現することから削除となりました。蛋白尿も単独の場合は母子に危険もたらすことが少ないことが統計的に確認されたため、高血圧を伴う場合のみ妊娠高血圧腎症として取り扱うこととなりました。ただし、浮腫や蛋白尿は問題ないと思ってしまうのも怖いことがあります。妊娠6~7ヶ月の早い時期からむくみがでてきたり、9~10ヶ月でも1週間に1~2Kg以上も急に体重が増えるようなむくみがでてくると、後から高血圧や蛋白尿も出現して重症化することがあり、注意が必要です。蛋白尿も同様に、浮腫をともない急激に増悪するものは高血圧腎症に移行する可能性が高くなります。自覚症状としてもっともわかりやすいのは浮腫・むくみです。急にひどくなったなと感じたときは、医師に相談してください。
骨盤位(さかご)について
妊娠の後期になると、赤ちゃんの位置が定まってきます。大多数は頭が下の状態の頭位ですが、妊娠10ヶ月の約5%では お尻が下になった骨盤位です。
骨盤位のお産は、前期破水、胎児仮死、新生児仮死などの危険が多いため、当院では、帝王切開となります。
骨盤位の原因には多胎妊娠、狭骨盤、前置胎盤、子宮筋腫合併妊娠などがあり、 骨盤位の治るのが難しい場合も多くあります。以前から逆子体操として膝胸位(ベッドに胸とひざをつけ、おしりを突き出すような姿勢)をすすめる施設もありますが、効果があるというエビデンスがないため、当院で積極的には指導していません。
妊娠中の食事について
妊娠中の栄養管理は、胎児の発育、母体の健康の保持と分娩や産後の体力回復に大きく影響します。 また、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、巨大児、異常分娩などの予防にも効果があります。そのためには、バランスのとれた規則正しい食生活を心がけましょう。また、食べ過ぎに気をつけ、食べた分(摂取エネルギー)にみあった運動(消費エネルギー)をすることにより、過度の体重増加を防ぐように頑張りましょう。
必要時、栄養士による栄養指導(食事分析)も行っております。
(1)バランスのとれた食事って?
炭水化物、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラルなどがバランスよく含まれた食事のことで、炭水化物(お米や麺類)ばかりでお腹を大きくせず、動物性と植物性タンパク質を上手にとって、カルシウムと鉄も不足しないように心がけて下さい。最近の食生活の傾向は、以前にくらべて肉を多く取るようになりました。そのうえに、野菜が不足しがちなために便秘がますますひどくなります。また、味の濃い食事にもなれ塩分を多く取ってしまいます。あっさりした味付けの日本食も見直してみてはどうですか?
(2)規則正しい食生活って?
仕事をされている人やご主人の帰りが遅い人は食事の時間が不規則になります。体重が増えたからといって1食抜くと、かえって逆効果になります。 基本は、3度の食事を規則正しくきっちりと取ることです。また、夕食が遅いと寝るまでの時間が短くなり、太る原因になります。できれば、昼食にしっかり食べて、夕食は軽くすませるのが理想です。
(3)運動してますか?
食べたらしっかり動きましょう。切迫流産、切迫早産などで安静にするように言われていなければ、 安定期にはいった妊娠5ヶ月からはどんどん運動しましょう。マタニティースイミングやマタニティエクササイズなどが盛んになりましたが、ウォーキングでも十分効果があります。ゆっくりぶらぶら歩くのではあまり効果がありません。腕をしっかり振って汗をかくぐらいのスピードで歩きましょう。決してこけないように気をつけて下さい。また、家の中の掃除も結構な運動になります。窓拭きをしたり、気分転換もかねて部屋の模様替えをしてはどうでしょう。
(4)肥満の判定法
肥満の判定法には多くの指標がありますが、body mass index(BMI)が広く使われています。 BMI=体重(kg)/身長(m)2 標準は18~24で22が理想といわれています。妊娠初期で24以上、中期で26以上、後期で28以上の時、妊娠肥満と考えます。
さて、あなたのBMIは?
(5)妊娠中の栄養所要量と妊娠中毒症の予防
最近、厚生省による「日本人の栄養所要量」が大幅に改定され、妊娠前半期、後半期ともに非妊時+200kcalとされています。また、妊娠中毒症の発症予防には、適切な妊娠中の体重増加が勧められています。
BMIが18未満のやせ型妊婦では10~12kg増
BMIが18~24の標準型妊婦では7~10kg増
BMIが24以上の肥満妊婦では5~7kg増
とされています。
吸引分娩について
分娩第2期遷延(子宮口が全開大してもなかなか産まれない)微弱陣痛(陣痛が弱い)、胎児仮死(お腹の中で赤ちゃんがしんどい)などの際に、赤ちゃんが産まれるのを手助けする方法です。 最後までお母さんに頑張ってほしいのですが、どうしてもなかなか産まれないとか赤ちゃんを助けるために限って行います。
当院での吸引分娩は、シリコン製の軟らかい吸引カップを使っていますので、頭血腫など赤ちゃんへの影響も少なくすんでいます。 お母さんにとっては産道の裂傷が起こることがありますが、お産後にしっかり処置されますので安心して下さい。
会陰裂傷と会陰切開術について
赤ちゃんが産まれる時に外陰部(会陰)が切れてしまうことが多くあります。これを会陰裂傷といいます。普通の正常なお産でも初産婦さんには特に会陰裂傷、膣壁裂傷が起こる事が多くあります。
(1)裂傷の分類
裂傷の程度により第1度から第4度まで分類されています。
- 第1度・・・表面だけの浅い裂傷。
- 第2度・・・第1度より深いが、肛門括約筋には及ばない。
- 第3度・・・肛門括約筋まで断裂した状態。
- 第4度・・・直腸まで断裂した状態。
(2)治療
お産終了後に産道に損傷がないか十分にチェックします。赤ちゃんが産まれてお母さんがホッとしている時に、少々気持ち悪く、痛い診察と処置がありますが、これがとっても大切なことなのです。当院ではとけて無くなる吸収糸を使っていますので、抜糸の必要がなく痛みも軽くすみます。
(3)予防
特に初産婦さんの場合には、あらかじめ会陰切開術を行って重症な会陰裂傷を予防する必要があります。会陰切開術は会陰、膣壁裂傷を未然に予防し、会陰部の抵抗を減らして児頭への圧迫を回避し、分娩第2期を短縮するなどの効果があります。